買い手目線に立った「消費者最前線」の販売セールス

商品を購入するパターンは、2通りあります。
例えばパソコン。
一つは、パソコンを持っていない人が新アイテムとして購入する場合。
もう一つは、今使っているパソコンをがサポートが終了して使えなくなったか、もしくは完全に壊れてしまったので、新しいモノに「買い替える」ための購入パターン。
買い替えが必要なモノには、家電や車、携帯、衣服、シューズなど枚挙に暇はありません。
さて、この「買い替え」ですが、必ずしも「古くなったから」「使えなくなったから」という理由で新しい商品を購入するとは限らないと思います。
「今使っているモノはまだ使えるが、どうしても新しいモノに買い替えたい」など。
だが、大抵の方の心境は、「欲しいけど、今持っているのまだ使えるしなぁ・・」「せっかく買ったのに、もったいない・・」というように新製品の購入へとなかなか踏み切れない。
家の中には捨てたくても捨てられないでいるモノが溢れかえっていると、これ以上モノを増やしたくないと思う方も多い事でしょう。
「断捨離」というシンプルライフスタイルが流行る昨今、「欲しい」と思っても、「これは本当に自分にとって必要なのか?」と自問自答するようになり、購入を躊躇する方が増えているのが現状だ。
「買い替え」購入最大の交渉権
あなたが仮に新しい「テレビ」買うかどうかを迷っているとします。今使っているテレビはまだ使えます。つまり「買い替え」ということです。
では、質問。次の2通りのセールスがあります。あなたなら、どちらのセールスで商品購入するでしょうか?
「20万円の最新テレビを、25%割引の15万円で購入できる」
「20万円の最新テレビを購入下さると、今使っているテレビを5万円で下取りします」
ご覧のとおり、どちらの場合も、最新テレビの購入価格は「15万円」。ですが、今使っているテレビを「買い替えたい!」のであれば、後者の「5万円で下取り」セールに惹かれませんか?
それどころか、今使っているテレビが「もったいない、どうしよう?」という迷いを解決できることで、最新テレビを購入する後押しとなってしまうはず。
先述したとおり、買い替えを躊躇してしまうのは、今使ってるテレビの存在。買い替えしなくても別にいいかも。って思ってしまうからです。
そこで、不要となる既存のテレビを5万円で下取りしてもらえるなんてオファーに惹かれないはずはありません。
ここには、「下取りサービス」が、単なる「値引き・割引き」とは異なる、買い替えユーザーを惹きつける心理効果がある事に気づきます。
ちなみに、「下取り」と「買い取り」の違いはわかりますか?
「下取り」とは、新しい商品を買う際に、今使っているモノを一定の価格で引き取ってもらい、その引き取り価格を買い換え商品に反映できるサービス。
「買い取り」とは、今使っているモノを単純にお金に変えてもらえるサービス。
特に、車の下取りと買い換えはどちらが得か?という悩みがあり、それぞれメリットデメリットがある。
車購入の話をここですると語りきれないほどに迷宮入りするのでやめておきます。
さて、話を「下取りサービス」に戻しましょう。
買い換えユーザーにとって、新規商品の購入は、「値引き」よりも「下取りサービス」がお得。今でこそ、当たり前になった「下取り」ですが、そもそもここに目を付けたのは、とある「通販ショップ」のあの方の発案だったという。
この通販ショップは当時、洗濯機がない家はほとんどなく、洗濯機を買う家は、ほぼ100%買い替えだ、という事を見込んだうえで、あえてそれに10,000円という値段を付けて「下取り」した。
単純に値引きをするよりも、下取りで10,000円とした方が新しい洗濯機が売れるからです。
その時のセールストークが、「なんと、今ならどんな洗濯機も10,000円で下取りします!どんな洗濯機!」こう謳われると誰しも惹かれてしまいます。
洗濯機を10,000円で下取りする場合、どんな洗濯機にも10,000円の価値があるわけではないはず。寧ろ、下取りされる洗濯機のほとんどは、本来1円の価値もないモノばかりのはずです。
家電の場合「今のモノがまだ使える」は新しい商品購入の最大のブレーキとなる。それを取り除くことで、新製品が「本来の価値以上で売れている」事は間違いない。
ちなみに、この通販サイトは、誰もが知ってる「ジャパネットタカタ」。
ジャパネットたかたの社長兼プレゼンターを長年務めてきた髙田明氏は、お客さま目線で本当に必要とされる商品を考案できる独自サービスを確立させる「天才」かもしれない。
だが、高田さんにとってのミッションは、「商品の先にある “ 感動 ” をお伝えし、商品を手にしたお客さまに“ 幸せ ” をお届けすること」であると明言。
「下取りサービス」の考案も、お客様目線で考え抜いた結果にて生まれたものなのでしょう。
「なぜ今、買う必要があるのか?」を伝える
2011年、アナログ放送から地デジへと移行した。今やすっかり当たり前の地上デジタルテレビ放送だが、アナログ方式に停波前後、「テレビ放送が見れなくなる」話題が持ちきりだった。
視聴者側は地デジ対応のテレビの買い替えを要するため、それに先立ちメーカー側にとって絶好の書き入れ時。
だが、消費者の中にはアナログテレビが無価値になる事が十分に理解していなかったのか「新しいテレビ」の購入を躊躇した。
理由はシンプル。「今のテレビでじゅうぶん見られるから」そこに対して、メーカー側は「新しいテレビは素晴らしい」という地デジ対応の新型テレビの魅力販促するも不芳がち。
然るに、株式会社「ジャパネットたかた」の社長、高田明氏は違った。
どうすれば、「古いテレビを手放してくれるか?」
そこで考案したのが「下取りサービス」だった。着眼点がまるで違う、いや消費者の買わない理由を捉えている。
当時、地デジ対応に先立ち、多くの家電量販店が販売した新型テレビは約10万円。
一方、ジャパネットたかたが売り出した価格は18万円で、5万円の「下取りサービス」を条件に販売した。
消費者にとって、実質13万円の購入となり、他の家電量販店と比較しても3万円の割高です。だが、売れた。ジャパネットタカタが売り出したテレビが瞬く間にソールドアウトとなった。
なぜ、5万円という高値で下取りができたのか?他の家電量販店よりも割高なのに売れたのでしょうか?ここに高田明氏の巧妙な戦略が潜んでいるのです。
一般ユーザーは、アナログ放送しか見れないテレビはいずれ無価値になる事を理解はしていたのだろう。
消費者にしてみると、今使っている、目の前にあるテレビは、地デジ対応ではないため、すでに実質「0円」の価値しかない。と普通はそう思います。
それをわかっているにもかかわらず、「今使っているテレビが壊れたら買おう。」「アナログ放送が停波してから、地デジ対応を購入しよう。」という認識が強かった。
なぜか?冒頭でも記しましたが、「今のテレビはまだ十分みれるから」「買い替えるのはもったいないから」確かにそうかもしれない。その気持ちわかります。そしてモノを大切にするその心は素晴らしい。
アナログ停波になるギリギリまで使いきってしまいたいと思うのは、「もったいない精神」が根強い方にとってわざわざ今すぐ買いかける必要もないだろうと思うのは至極当然。
そんな倹約ユーザーの財布の紐を締めていただくために高田社長は、「あなたのテレビは今なら、5万円の価値がある」と言ってくれるのだ。
「オナラをした。」という事後報告くらい “ イラない ” ともいえる古くなった無価値ともいえるテレビが、5万円というありえないほどの高値をつけて下取りしてもらえる!というのだ。
「今この5万円の価値を行使しなければ、いずれ必ず0円の価値になってしまう・・」買うのだったら、「今しかない」という気持ちになってしまうのである。
売り手側こそ「買い手目線」で
どうでしょう、気づいたでしょうか?高田社長は、地デジ対応の新型テレビを販促したわけではない。
買い替えが必要なのはわかっているが、もったいなくて購入に踏み切れない消費者側に、「買い替えるなら今です!」と、“ 気づかせてくれた ”。
なぜ買ってもらう必要があるか、なぜ今買う必要があるのか、なぜ他のショップではなく当ショップで買うとお得なのか。
「伝える」セールスには、消費者に「気づいてもらう」というアプローチの必要性も大切な要素だと高田氏から学ぶことができました。
生み出されるヒット商品も、目の前の課題を一つ一つ解決しながら試行錯誤で身につけていくものですね。
ここでいえることは、売り手側に立つ人は、販売者ではあるが、消費者である買い手目線の訴求を汲み取らなくてはいけません。
つまり、「売るにはどうすればいいか?」という販売者思考にばかり捉われないで、「買うにはどういう理由なのか?」という “ 消費者最前線 ”の立場での思考することが大切だったりする。
「こんなサービスがあったら買うのになぁ」とか、「これお得やん!」と思えるセールスを見かけた時は、少しマーケット感覚を研ぎ澄ませてみよう。