相対性の罠-騙される認知バイアス-

早速ですが、以下の月刊誌「春夏秋冬」(仮名)の定期購読の申し込みチラシ広告をご覧ください。

さて、この月刊誌の定期購読プランの価格をご覧になって何か不自然に感じたでしょうか?
ご覧のとおり、一つめの、「ウェブ版の年間購読」が95ドルというのは、まずまず手ごろ価格です。
2つめの、「印刷版の年間購読」が125ドルというのも、少し高めではあるものの、まあこんなところでしょう。
ところが、3つめは、「印刷版とウェブ版の年間購読」が125ドルと書いてあります。
そう、ご察しのとおり、印刷版だけを購読するのと、印刷版とウェブ版の両方を購読するのが同じ値段なら、だれが印刷版だけにしておこうと思うだろう?と思ってしまうはずです。
広告作成時の記載ミス?
だとしたら、2つめの「印刷版の年間購読125ドル」に誤りがあるのか、それとも「印刷版とウェブ版の年間購読125ドル」の誤値なのか?
可能性としては、3つめの、「印刷版とウェブ版の年間購読」が125ドルでは、
ウェブ版の購読価格が「タダ」になってしまい、雑誌側は太っ腹すぎます。
おとり選択肢のカラクリ
さて、あなたなら、この3つのプランから選択するならどれを申し込みますか?
おそらく、2つめの「印刷版の年間購読」を選択することはしないはずです。というのも、「印刷版とウェブ版の年間購読」は同じ価格。
雑誌側のミスなのかどうかは無視するとして、どう見ても3つめの、「印刷版とウェブ版の年間購読」が125ドルにお得感がある。
私なら、迷わず「印刷版とウェブ版の年間購読」プランを申し込みます。
ややもすると、「印刷版の年間購読」の申し込み数は「ゼロ件」ではないかとも思えます。
ならば、2つめの「印刷版の年間購読」のプランは意味がないので、このプランの項目を削除した広告を見てみよう。

いかがでしょうか?
初めにこの2つの定期購読プランの広告を始めにご覧になった時、「印刷版とウェブ版の年間購読」にお得感を感じるでしょうか?
迷わず申し込みをするだろうか?
この広告だと、1つめの「ウェブ版の年間購読」が59ドルで申込みされる人のほうが多くなっていたかもしれません。
さぁ、気づいただろうか?
これが、雑誌側の戦略だということを。
あなたは、最初に見た広告を「価格の記載ミス」だと思い、3つめの「印刷版とウェブ版の年間購読」プランをお得だと感じ、迷わず申し込みをしたかもしれない。
2つめの「印刷版の年間購読」が125ドルは、記載ミスではなく、わざと同じ価格で記載した。と考えたらどうだろうか?
そう、これは「おとり選択肢」というもの。
2つめの「印刷版の年間購読125ドル」は雑誌側のおとり作戦です。
2つめのプランがもともとない場合、3つめの「印刷版とウェブ版の年間購読」プランの申し込み数を稼ぐことができない。
なので、あえて、「印刷版のみ」と、「印刷版+ウェブ版」の価格を同じにする事で、閲覧者に「得をした!」と感じさせた。
このカラクリに気付いたでしょうか?
相対性の罠
相対性は(相対的1)「相対的」の意味は、「他と比較した関係の上で成り立つ様子」です。「比べてみると」と解釈するとわかりやすいでしょう。 に)理解しやすい。
相対性には、絶えず私たちの足をすくう要素がひとつある。
私たちは物事をなんでも比べたがるが、それだけでなく、比べやすいものだけを一所懸命に比べて、比べにくいものは無視する傾向があります。
ちょっとややこしいかもしれないので、例をあげよう。
たとえば、はじめての家を買うとする。
不動産業者が見せてくれた3つの物件は、どれもなかなかよさそうだ。ひとつは日本風の建物、あとのふたつは西洋風の建築様式です。
3つとも価格はほぼ同じで、どれも同じくらい気に入ったとします。
唯一の違いは、片方の西洋風様式だけ屋根を新しくする必要があり、それにかかる余計な出費を相殺するために所有者がすでに値引きしている点です。
あなたなら、どの家を選ぶだろう?
おそらく日本風は選ばず、屋根の修理が必要な西洋風様式も選ばないのではないだろうか。
物事を相対的に判断し、本質を見落としてしまう心理。
これを、「 相対性の罠」という。
心理学ではアンカリング効果といって、最初に提示された数字や条件が基準となって、その後の判断が無意識に左右されてしまう、という心理。
船がいったん錨(アンカー)を下ろすと、そこからほとんど動けなくなることになぞらえています。
購買ロジックに陥る罠
ネットショッピングで500円の商品を買うのに送料が600円の送料がかる。
ほとんどの人はもったいないと感じるはず。
しかし、1万円の商品を買った場合の送料600円はどうか?
それぐらいはいいかと思えるかもしれない。
10万円ならほとんど気にしない人もいることでしょう。
では、買い物金額の合計額が7,000円で、
「8,000円以上のお買い上げで送料無料」だとすれば。
送料無料にするために、いろいろな商品を物色し、8,000円以上になるまでカートに入れて購入する方もいる。
本来、7,000円に送料を入れて7,600円で済んだものを「ついで買い」1,000円で予定金額よりも400円の負担増。
しかし、この400円の負担を “損をした”とは感じない。
実際ショップ内でも、「ついで買い」をほのめかし、単価アップをはかる手段として利用しているはずだ。
関連性の高く、購入された金額よりもはるかに安いモノをおすすめし、アンカリング効果を利用すれば、まれに追加注文される方もいます。
本来送料というものは、モノを運ぶ側のコストであり、買い手が7,000円の買い物をしようが、500円の買い物をしようが、
600円の送料というものは絶対的コスト額であるはず。
しかし、配送コストのロジックを知らない一般の買い手側の方が気付かないのは当然。
買い手に伝わることは、認知バイアス2)認知バイアスとは、認知心理学や社会心理学の理論であり、ある対象を評価する際に、自分の利害や希望に沿った方向に考えが歪められたり、対象の目立ちやすい特徴に引きずられて、ほかの特徴についての評価が歪められる現象を指します。 に支配される心理だけです。
「せっかくだから」が口癖の人は要注意。コストをかければかけた分だけ取り返したいというバイアスがかかるからです。
例えば、これを利用したのが、アマゾンの「あわせ買い」サービスがあります。
本来、「ついで買い」してもらうためには、必要であろうと仄めかす関連性のある商品や、いずれは消費する可能性の高い消耗品などをおすすめとして提示する。
アマゾンの「あわせ買い」戦略は、人が最も購入決定の要素とする「送料無料」を謳い、さらにユーザー自身が商品選びができる。うまいやり方だ。
プライム会員であろうと、合計金額が2,000円に満たないと注文確定できない仕組み。
※ちなみに、人がネットショッピングで購入決定となるものは「送料無料」ついで「口コミ・レビュー」だとされる。
全品送料無料を撤廃し、あわせ買いサービスを導入した背景には、低価格商品のみを購入された時の配送の負担軽減や、
利益確保へシフト変換したなどの理由があるようだが、
個人的には、逆に低価格商品の品揃えを増やさざるを得ないことでユーザーにとってはありがたいものだと思う。
これもまた、「相対性の罠」を引き起こした戦略ではないか。
他人と比較する(相対比較)罠
人は誰しも他人と比較したがります。しかし、特定の人と比較することは相対的な比較です。
あの人はやりたい事を仕事にしてるからやりがいを感じているのだろう。
それに比べて、自分は生活のため、やりがいなんてみじんも感じない。
だが、そのやりがいを感じているであろう相手が、結局休みなく働かざるをえない状況を目の当たりにすると、
「自分なんてまだマシだ」と認識した瞬間、この上もない 曖昧 な感覚論へと変貌する。
本来なら、どんな仕事であろうと、家族のため、生活のためであろうと、結局は誰かがしなくてはいけない。
その誰かがしなくてはいけない、ややもすると、誰もがしたくないであろうと認識されがちな仕事を成し遂げられるプロフェッショナルであるはず。
「やりがい」という不確かな感覚なんて気にせず、己だけが果たせるミッションであるはず。
やりがいは相対的に捉えないで、自身の絶対的な価値としてとらえたいものだ。
誰しも物事を相対的に捉え、自身の絶対価値の認識を妨げられてしまう、認知バイアスに引きずられないように気をつけましょう。
References
1. | ↑ | 「相対的」の意味は、「他と比較した関係の上で成り立つ様子」です。「比べてみると」と解釈するとわかりやすいでしょう。 |
2. | ↑ | 認知バイアスとは、認知心理学や社会心理学の理論であり、ある対象を評価する際に、自分の利害や希望に沿った方向に考えが歪められたり、対象の目立ちやすい特徴に引きずられて、ほかの特徴についての評価が歪められる現象を指します。 |