既存メディアを食う、広告収入を充てる「無料」


「無料」で儲けるフリー戦略。基本的なモデルは4つあります。今回は、最も有名で身近な「三者間市場」について説明しよう。
ポケットティッシュ配布の意外な話
駅前通りで見かけるポケットティッシュの配布。 何かチラシみたいなものを渡されたら嫌だなと思って避けてそのまま通り過ぎる人もいれば、 ティッシュは買えば当然お金がかかるため、「無料」でもらえてすごく助かるという人もいます。
しかし、配っているのは確かにティッシュではあるが、本当はチラシ同様の「広告」を配布している。「チラシ配り」だと、誰もが敬遠してしまうため、もらって損しないポケットティッシュに広告を入れておくことで宣伝効率を上げる作戦だ。
無料で提供される商品の典型とされる広告媒体としての無料のポケットティッシュ。じつはこれ、日本だけの風習で、海外で見かけることはないという。
遡ること1960年頃、当初は「マッチ」を広告媒体として配布していたとされるが、徐々にマッチを日常で使う機会が減ったため、新たな広告配布アイテムとして、ポケットティッシュが主流となった。
つまり、この頃から広告を付けて配る風習があったということ。
話の流れからすでにご察しの通り、そうです、ポケットティッシュの起源は宣伝広告を手軽に行いたいというマーケティング手法の1つとして導入されたものだったのです。
衛生グッズとして重宝される ティッシュと広告を合わせたアイデアはさすが日本人らしさを感じます。
ポケットティッシュはビラ配りよりも宣伝効果抜群!
ティッシュは需要が高いため、宣伝用のチラシやビラを配るよりもティッシュを配る方がはるかに受け取ってもらえる確率が高くなります。
チラシやビラなどは受け取ってもらえる確率が低い上、内容を見ずにすぐに捨てられてしまうことも多いようですが、ティッシュなら受け取ってすぐに捨ててしまう人はそれほど多くはない。
あるリサーチによると広告の転換率は、新聞折り込み広告が約0.03%、ポスティング広告が約0.2%、ティッシュ配りはなんと約4%というデータが実証されている。
この転換率の高さはティッシュ需要の高さもあるが、実は、ティッシュ配りバイトは予め、「受け取ってもらうためのノウハウ」を学ぶそうです。
例えば、公衆トイレ付近は受け取り率は高い、週の後半から土曜日にかけて徐々に購買意欲が上がっていくので反響が良い、手渡す1メートルくらいで視線を合わす・・・など、「コツ」というものがあるらしい。
新聞折り込みチラシや手作りの広告をポストインに励んでいる方、一度ポケットティッシュ広告を試してみてはいかがでしょうか。
ポケットティッシュを「無料」で配布できる理由
さて、宣伝効率の高い広告付きのポケットティッシュは、当然その製造コストがかかります。にもかからわず、なぜ「無料」で配布できるのだろうか?
ポケットティッシュの原価は、平均的には1個約3~8円とされています。ポケットティッシュを配る人の時給が1000円、1時間に200個配布することができるとすると、1人当たりの広告費は、ポケットティッシュを5.5円として計算すると、約10円という計算になります。
先に説明したとおり、配っているのはティッシュではあるが、本質的には「広告配り」です。
このポケットティッシュの経費は製造工場に「広告費用」として広告主があらかじめ代金を支払っているわけです。

ん~??なんかわかりずらいんですけど、つまり、ティッシュ工場とティッシュを受け取る人との間に「広告主」が紛れ込んだ。ということですか?

おぉ!いいとこついてるね~。まさしくその通りで、広告付きティッシュの費用を負担しているのは広告主で、広告費用として工場に支払っているんです。
第三者がコストをカバーする「三者間市場」
ポケットティシュを配る人はバイトの人で、受け取る人に「無料」で配っていますが、この二者間のやりとりだけではありません。
そのティッシュは「広告付き」。第三者である「広告主」が見えないところで間に存在し、予め広告費用としてティッシュ代金を支払っているので、受け取るユーザーはお金を支払う必要がないため、まるで「無料」でもらっているように思える。ということです。

つまり、本来お金を支払って購入するはずのティッシュが「無料でもらえる」のは、予め広告主が広告費用をティッシュ代金として既に支払っているからなのです。
このように、サービスを利用するユーザーが直接費用を負担するのではなく、第三者が代わって費用を負担する。
この広告主、生産者、消費者の三者がかかわっているモデルは、フリー戦略の内の一つで「三者間市場」という。


でも結局、広告を見た人がその商品を買ったりサービスを利用しない限りはティッシュ代を支払った広告主の儲けはでないんじゃないですか?

そのとおり。広告はいかにして費用対効果を得られるかが重要。だからこそ、ポケットティッシュの効果が活かせというもの。

あ!そういうことですか!広告の成約率をティッシュパワーでどうにかしようって作戦ですね。

そうだね。それに、ポケットティッシュ広告を利用する業界は学習塾・資格学校などの教育関係企業、美容業界、スポーツクラブなどがの業界が多く、これらの業界は宣伝により1人でも顧客を獲得することができれば入会費や利用料で数万から数十万円の売り上げを獲得することができるのです。

あれ?ちょっとまってください。よくよく考えてみれば、その広告を見て数万円から数十万円を支払ったとしたら、「無料」でもらったはずのポケットティッシュが、結局「高い買い物」をしたことになりませんか?

よくそこに気付いたね。一見無料でもらえたものが、結果高い買い物をすることとなる。これこそが、フリー戦略のキモというものだよ。

なるほど~。恐るべし「無料」・・・他にもこの三者間市場の無料作戦はポケットティッシュ以外でもありますか?

もちろん。例えば、身近な所でいえば、テレビ。NHK以外の民放のテレビ放送が「無料」で視聴できるのは、番組の途中に流れる「CM(コマーシャル)」の広告収入でペイしているからです。
NHKの収入の約98%は、視聴者が支払う受信料です。
一方、民間放送は、企業等のスポンサーが支払う「広告料」をおもな財源として運営しています。

無料動画配信サービス「 GYAO!」儲けのカラクリ
多くのメディア企業が、広告収入の減少に苦しむ中、広告枠から売り出すはしから売れていくサービスがある。
ヤフーの無料動画「GYAO! 」だ。
GYAO!はヤフー株式会社と株式会社GYAOが運営するVODサービスで、無料で長編映画やドラマを配信していたり、大人気グループのミュージックビデオを配信したりと、お得で便利な動画配信サービスです。
基本的には会員登録ナシでも利用できるが、年齢制限のある動画を視聴する時などはヤフーへの無料会員登録が必要。
通常、無料で見られる動画といえばドラマやアニメの1話無料など、短い作品を少しだけ視聴できるか、違法アップロード動画であることが多いですが、GYAO!では人気映画の関連作品や、過去のヒット作も配信、アニメやドラマは全話一挙配信することもある。
どうしてGYAO!は、安心して公式動画を「無料」で視聴できるのだろうか?
GYAO! で番組をご覧になった方でしたら既にお気づきの通り、GYAO! は番組内で流す「広告」、つまりCM(コマーシャル)が主な収益源となっている。
視聴者は見ようとする番組の始めの部分と映画などの長い番組であれば途中で「CM」を必ず見なければいけません。このCMをスキップすることはできないのです。
とはいってもCMはテレビの番宣や日用品の宣伝動画など、数十秒で終了するものがほとんどで「長い!」とは感じないといえる。

実際私もGYAO!で流れるコマーシャルは必ず見ます!

え~そうなんですか?僕はどちらかというとコマーシャルは飛ばしたい派です。

でしょうね。考タロー君のように、CMをうっとうしいと感じる人は実際に多いとされます。しかし、CM提供側とすれば高い広告料を支払っているのにCMをスキップされることは費用対効果の著しい低下を招いてしまうわけです。

ところがGYAO!では視聴者は必ずCMを見なければいけません。
GYAO!のCMはテレビに比べ広告費も安価で済み、視聴中に視聴者を自社ホームページに誘導することができるなど、費用対効果を簡単に計測できるメリットもある。
また、視聴者は会員登録の際に郵便番号、生年月日、職種などを登録する必要がありますので、このデータを利用して、たとえば年配の経営者がGYAO!を視聴する際には高級車の広告を流すなどピンポイントでターゲットにマッチしたCMを配信することができるのも強みなのです。
インターネット広告の強み

さて、フリー戦略「三者間市場」に伝お送りしましたが、何となくつかめたでしょうか?特にインターネット業界で急成長している企業にこのモデルを良く採用されています。

それは例えばどんなものがありますか?

例えば「グーグル」。グーグルの検索エンジンも三者間市場によって成り立っています。 グーグル検索は検索された際に表示されるアドワーズ広告や、その広告を他社のウェブサイトが自社メディアに掲載して広告費を稼ぐというモデルを提供しているため、あらゆるグーグルのサービスは無料で使えるのです。

前回の記事で、「直接的内部相互補助」で紹介したDeNAのモバゲーは、課金アイテムで儲けをカバーしているだけでなく、実は、広告収入からも儲けているのです。

なるほど、でもインターネットで「三者間市場」モデルはどうして効果があるのですか?

いい質問だね。インターネットの広告効果は、街で配るチラシにはないメリットがある。それは、ターゲット層に的中した広告を見れもらえるところです。

街で通りすがる人がどんなものが欲しいのか、どんなサービスを求めているのかは当然わかりません。なので、やみくもに配っても、的外れになるわけです。ですが、ネット検索で「車」についての検索をしたとき車関連の広告が表示される。より興味深い広告を見れもらえるという事です

いわれてみれば確かに、僕もどうして自分に関係のある広告が表示されるんだろうって疑問に思ってたんです。

孝タロー君が言ってる広告は、たぶん「行動ターゲティング広告」または「追跡型広告」と呼ばれるインターネット広告のことですね。
そのため現在、多くのWebサイトが採用している手法です。
では、どんな仕組みでユーザの閲覧履歴を参照しているのでしょうか。
それは、Webサイトが訪問者を識別する代表的な仕組みが「Cookie(クッキー)」です。
Cookieとは、ブラウザを介してWebサイトにアクセスした訪問者のパソコンやモバイル端末にファイルを生成し、一時的に保存する機能をいいます。
このとき生成されるファイルには、訪問者を識別する「ユニークID」が割り振られ、そのユーザがどこのサイトにアクセスしたのかという閲覧履歴や、ログインするときの情報などが記録されます。
SNSなどで1度ログインすると2回目以降はIDやパスワードを入力することなく自動でログインできるのも、ショッピングサイトで以前閲覧したアイテムや関連商品をお勧めされるのも、Webサイトがあなたの端末に保存したCookieファイルを参照していることが主な要因です
この機能を利用したのがこの「行動ターゲティング広告」(追跡型広告)です。

へ~。こんな事ができるのは手配りしているアナログの広告ではできませんね。デジタルのインターネットを使った広告だからこそできる技ってことかぁ。

そう、そのとおりです。インターネット広告はデジタルです。クリックされたかどうか、会員登録されたかどうかなど、広告効果をデータとして捉える事ができる特徴があります。フリー戦略が、デジタル化が進ことに比例して進化しているといわれるのはこういう事なのです。
既存メディアの広告を脅かす、ネット広告を使ったフリー戦略は、まだまだ奥が深い。次回は、フリー戦略のプレミアム、「フリーミアム」について紹介しよう。
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