「サンクコスト」の呪縛

「サンクコスト」の呪縛

「お金を払ったからには元を取らないと!」

「これまでかけてきた時間を無駄にはしたくない!」

普段の生活からこういった考え方をすることはあると思います。

一見お金や努力を大切にしているように見えるこの考え方は、もしかすると、もっと楽しい日々を送るチャンスを、もっと大切な何かを潰している可能性があるかもしれません。

サンクコストとは?

休日に映画館に出かけたとします。

当日チケット代1,500円払い、楽しみにしていた映画を見始めたが、開始10分ほどで期待外れでつまらないと判断した。

さて、せっかく料金を支払ったので、最後まで映画を見ますか?

それとも見るのを途中で辞めてショッピングにでも行きますか?

映画鑑賞のチケット代金をキャッシュバックすることは当然できません。期待外れでつまらない映画だとしても、支払った「料金のコスト」は無駄にしたくない。

だが、つまらない映画を見続ける残り1時間50分の「時間のコスト」が無駄になる。時間のコストを選択すると、支払った料金は無駄になり、料金のコストを選択すると、貴重な時間をつまらない映画で過ごす事となります。

さぁ、あなたならどちらを選択しますか?

つまらない映画を見るコスト、やめるコスト。どちらが得かを測るため、エネルギー(時間・料金・労力・感情など)の総量で考えてみよう。

【最後まで鑑賞した時のエネルギー】

  • 時間:2時間
  • 料金:1,500円
  • 労力:映画館まで出かける・つまらない時間に耐える
  • 感情:2時間のつまらない

【途中で退出した時のエネルギー】

  • 時間:10分
  • 料金:1,500円
  • 労力:映画館まで出かける
  • 感情:1時間50分の自由

まず、映画館まで出かける労力、映画を見るために支払ったチケット代1,500円、映画を見始めた10分間のコストは当然戻ってきません。

これらの「つぎ込んだ3つのコスト」に対し、あなたは「元を取らないと勿体ない」と感じるでしょう。

それでは、もし仮に、映画館まで出かける労力、映画を見るために支払ったチケット代金1,500円、映画を見始めた10分間「つぎ込んだコスト」がほぼ発生しない場合で考えてみます。

家からすぐ近くに映画館がある、チケット代は無料です。

【最後まで鑑賞した時のエネルギー】

  • 時間:1時間50分
  • 労力:つまらない時間に耐える
  • 感情:2時間のつまらない

【途中で抜けた時のエネルギー】

  • 時間:1時間50分
  • 労力:なし
  • 感情:1時間50分の自由

いかがでしょうか。「つぎ込んだコスト」という呪縛を排除すると、「映画館を10分後に抜ける」を選択するはずです。

何かを「やめたい」と思った時、今までかけたコストが頭をよぎると、せっかく今まで頑張ったのに、せっかくお金をかけたのにと考え始め、「やめるのが勿体ない」気持ちが湧いてきます。

この「もったいない」という呪縛に取りつかれていると、合理的な選択ができなり、結果的に損をしてしまったという経験は誰しもあるのではないだろうか?

先ほどの事例では、映画を見るために支払った1,500円は、「映画を見るコスト」ですが、それは思い込みで、今から過ごす2時間の「時間料金」だと割り切ることもできます。

つまらない映画を見ようが、10分で退出しようが、残りの1時間50分にかかる料金は回収することはできません。

この、取り返すことのできないお金や時間、労力を「サンクコスト」といいます。

サンクコストの罠

サンクコストは英語で「Sunk Cost」と表記し、「埋没費用」と訳します。

「Sunk(サンク)」とは「沈む」を意味し、沈んでしまって取り返すことのできない状態であることを示し、「Cost(コスト)」は「費用」の意味で、お金や時間、労力などを示します。

この「サンクコスト」というものは厄介で、時間やお金、労力などを「もったいない」と感じる気持ちから、判断を誤りますます損をしてしまう事がある。

私たちの日常には「サンクコスト」の呪縛に陥る事は多々あります。

例えば、「食べ放題」「飲み放題」「乗り放題」「歌い放題」などの「○○放題」といったサービス。

「せっかくお金を払ったから、元を取らないと損!」「乗り放題だから、全部乗らないと損!」だと考えてしまいがちになる。

飲食店を例に見てみると、「食べ放題」と聞くと、「できるだけ食べなきゃ損」、さらに「食べ放題コースは2時間限定」などと制約があると、時間ギリギリまで飲み食いすることだってあります。

しかし、本来外食は美味しいものを味わう有意義な時を楽しむものですが、元を取ろうとするあまり、食べ過ぎて気持ち悪くなってしまっては、食を楽しむことも、有意義な時間を過ごすこともできません。

支払った代金は、かえって「ムダ金」となりかねない。

最初にかかる費用がサンクコストであるという考え方ができずに、その費用に固執してしまうと、簡単にサンクコストの呪縛に陥ってしまいます。

「元を取ろうとすると、時間を失う」という事です。「金銭」は取り返すことはできますが、「時間」を取り返すことはできません。

時に、「元をとる」気持ちは、モチベーションを維持させるきっかけになる事もあります。行動につながるきっかけは人それぞれですが、元をとる事が目的になってしまうと焦点がズレてしまったり、本来の「楽しさ」に気付かないこともある。

本当に楽しい、好きな事は「お金を払ってでもしたい」と思う事であり、「損したくない」「リターンがないと意味がない」なんて思いません。

得を取ろうとして損したくないバイアスがかかってしまうと、大切な事を見落としてしまう。

サンクコストは、いってみれば過去のムダにしたコストです。現在から見た過去に対する「後悔」ともいえます。

「過去のコスト」と「未来のコスト」

ですが、ほとんどの人が気づいていない。現在から未来にかけての無駄なコストのことを。

もっともわかりやすいのが、「物事の先延ばし」。

「あッ・・!」と思ったのではないでしょうか?

物事を先延ばしにすると、結果的に倍の時間と労力、コストが必要になる事を知っていますか?

「本当はすぐにやらなければいけないことがあるのに、ついつい先延ばしにしてしまう」こんな経験はあるはずです。

タイムマネジメントの専門家である「リタ・エメット」氏が提示した「エメットの法則」はご存知でしょうか?

これは、やらなければならない事を先延ばしすればするほど、それを完了するためには余計に労力と時間がかかる。ということを意味しています。

説明しなくても考えてみれば当然のこと。仮に今日やることを明日に先延ばしすると、明日やるべきことと、今日やるべきことの2つをこなさないといけません。

それに、この先どんなことが待ち受けているかわからないので、2倍どころかそれ以上の労力や時間をようするかもしれません。

いかようにも、今できる事を先延ばしすることは、時間に比例して労力やコストは大きくなります。

それに、先延ばししてしまうと、そもそも内容を忘れてしまっていることもあり、「思い出す」という余計な労力がかかる。

先延ばししたことすら忘れてしまっているとなると、「覚えておく」という余計な労力もかかります。

しかも、締め切りまでの時間は確実に短くなっているから、精神的な負担は確実に大きくなる。

先延ばしで問題になるのは自分だけではなく、他人を巻き込むリスクがある。

このことは、顧客のクレーム処理の仕事に当てはめてみると分かりやすいでしょう。

クレームが発生した時、後にすぐに処理をすればある程度のダメージで済むかもしれないが、時間をあけてしまうとどうなるか。

例えば、「無視をされていると感じて怒りが増す」「知り合いに悪い噂を広める」などという事態を招いてしまう恐れがあります。

特に悪いうわさは10倍の速度で広まると言われているので、問題が2倍に膨れ上がる程度では済まされないということです。

さて、もうお気づきだと思いますが、サンクコストの無駄は、過ぎ去った「ムダ」でもう終わったことです。「過去」はもうどうすることもできないのです。

つまりそれは、サンクコストの無駄ははそれ以上に大きくなることはなく、自分の中で「チャラにする1)物事をなかったことにすることを「チャラにする」という。その由来は、「ちゃらんぽらん」「ちゃかす」「べんちゃら」「ちゃらちゃら」からといわれています。(物事をなかったことにする)」ことさえできます。

それに、サンクコストの呪縛にとらわれずに、「今、ここ」から次に発展させようという意欲を持つことで、行動や思考の癖に変化がもたらされ、貴重な「時間」を一切ムダにすることなく、未来を切り開くことができるようになります。

一方、先延ばしにしたことは、この先よほどのことがない限りは、消え去ることはなく、労力やコスがは倍以上になるだけでなく、貴重な「時間」さえもムダにしてしまうのです。

「やってしまった後悔」と「やらなかった後悔」

投資したお金やコストにたとえムダだと感じ後悔しても、「過去」はもうどうすることもできません。「今、ここ」からの未来だけです。

桜の木は、春になると満開になり、約10日間後には、薄ピンク色の花びらは散ってしまい、さびしいように思えます。

しかし、散った後の桜の木は、「みつせん」と「たく葉」という緑の葉っぱが生いしげり、夏の間はあつくなった木をさますクーラーの役割を果たすといいます。

また、猛暑になると、乾燥を防ぐために、水やりが必要な場合もあるそうです。

桜の木は、散ったその時からが実は大切な時期だということです。

「後悔」とは、散った花びらを再び枝に戻そうとするようなもの。それよりも、散った枝 から再び芽をだすその時まで、土に水をやり続けることの方が大切。

だれだって後悔はします。行動するから後悔するのであり、それは、後悔しない生き方をしている人は、“ 挑戦しない自分を嫌う人 ”ともいえます。

「やってしまった後悔」をしているくらいなら、それを「反省」に置きかえ、「今、ここ」でやるべきことに力を注ぎ、「やらなかった後悔」をしない選択をこれからはしていこう。

References   [ + ]

1. 物事をなかったことにすることを「チャラにする」という。その由来は、「ちゃらんぽらん」「ちゃかす」「べんちゃら」「ちゃらちゃら」からといわれています。