情報化時代の「脳トレ」スキル

私達の脳は、実にさまざまな働きをしています。
脳というものは、使うほどに活性化し、「物事を記憶する能力」「考える能力」「行動や感情をコントロールする能力」「コミュニケーションする能力」などといった、人間らしく生きるための能力が、年齢に関係なく鍛えられている事が分かっている。
もう随分と昔の話になるが、音読・計算が脳を「活性化」させる空前の「脳トレ」ブームは、脳科学に関心が向いた火付け役だったのかもしれません。
つい最近では、ほんの10分の軽い運動でも脳が活性化する「運動こそが唯一の脳力開発だ」という研究結果が発表されるなど、その脳活性をテーマとするその課題は今でも後絶たない。
脳を活性化するにはどうすればいいか、脳にいいこと・悪いこと、脳にいい習慣、脳にい食べ物など、これらは一貫して「脳を鍛える」こと主体としてきた。
つまり、脳に“ 負担 ”をかけることが脳活性につながるものだと私たちは解釈してきたのではないだろうか。
しかし、脳科学的な根拠に基づいてしっかりと効果を上げてくれるであろう「脳トレ」を愚直に実践すれば本当に効果を得られるのだろうか?
一部では「脳トレ」批判が展開されたこともあったが、その件に関してはあえてここで取りあげる必要はないのでスルーします。
「脳トレ」よりも、「脳効率」
「脳トレ」がいい悪いの問題よりも、脳トレを始めてはみたが、気づけば関心は薄れ、結局は続けることができない。ではないだろうか?
それもそのはず、大抵の人は、英会話やジョギング、ダイエットなど、「続ける」習慣を日常生活にとりいれることに悪戦苦闘しているからだ。
簡単な事さえ続ける事が容易くない上に、目に見えて成果を実感しにくい「脳トレ」に関心が薄れるのはいか仕方がないかもしれません。
いちいち自分の脳が良くなったか悪くなったかは測定しようがないため、限られた時間の中で、あえて脳トレに費やす時間を設ける必要はないかもしれない。
しかしなぜ、人は脳を活性化させたいと思うのでしょうか?
例えば、仕事で効率よく高い能力を発揮したい、問題解決能力を身につけたい、ボケたくない、物忘れが多くなったからなど、なにかしらの脳力の低下を感じたから。というのも理由のひとつ。
ですが、もっと身近な事で例えると、こう考えてみてはどうだろうか?
「疲れてしまって頭が全然働かない・・・」
「やることが多すぎて頭がパンクしそうだ・・・」
「やりたい事があっても結局疲労でやれない始末の毎日だ・・・」
など、脳を活性化させることよりも、今の脳力でいいからスッキリといい状態で最大限脳機能を発揮させたい。ではなかろうか?
成果の見えない脳力開発に時間と量力を注ぎ、かえって疲労を助長させるよりも、“ 本当にやりたい時に最高のパフォーマンスを発揮できる状態でありたい ” ということを実現させる方法を知ることの方が建設的では?
だとするならば、脳細胞を使いまくって脳活性を試みるという固執した発想を一旦忘れ、「脳の負担を軽減し、効率化を図る」ことに意識を向けてみてはどうだろう。
実は、脳を使うエネルギーは意外と少なく、大抵の人は “ 脳の無駄遣い ” をしているという。
脳の負担を軽減する事が、なぜ効率的なのか?そのことについて少し説明してみよう。
脳の最大の武器は「省エネ」
あまり知られていないようだが、脳は、必要な情報の容量を確保しながら、自分のやるべきことに使われる消費エネルギーを最小限に抑える「省エネ機能」があるといいます。
簡単にいうと、私たちの脳の中で日常的に行なわれていることは、できるだけ使う部位を少なくして、エネルギー効率を高めようとする節約・省エネ機能が標準装備としてあるということです。
さらにおもしろいことに、脳機能が高い状態の時と、疲れ果てて容量オーバーとなり著しく脳機能が低下している状態を比較すると、前者の方が使うエネルギー量が少ないことがわかっている。
ここでいう脳機能が高い状態とは、イライラすることなく、何となく頭がスッキリと冴え、高いパフォーマンスを発揮できる状態をいいます。あなたも「今日はなんだか絶好調!」という経験をしたことはあるでしょう。まさにこれは、脳機能が高い状態です。
「今日は絶好調!」の状態の方が脳エネルギーの使用量は少ないのは、エアコンに例えるとわかりやすいでしょう。
エアコンのフィルターにホコリが目詰まりしたまま稼働させると、設定した室温を保つために余分な電力を使います。そのためかえって電気代が高くなることは知っていますね。つまり、エアコンのフィルタ-に付着したホコリをキレイに清掃したほうが、少ない電力で室温を保てるため、省エネ稼働となる。
人の脳の「省エネ機能」にもエアコンと同じで、脳内に無駄な情報で容量オーバーになると、余分な脳エネルギーを使わなければいけないため、早く脳疲れを招くということです。
高いパフォーマンスの状態である時、頭が冴えている時、何となく脳のエネルギーをいつもより使っているかのように思えるのですが、実はその逆で、出来る限り少ないエネルギーでより高いパフォーマンスをしようとするのが、人間の脳の凄さ。といえるのだ。
つまり、脳の負担を軽減し、効率的な省エネモードを発揮するには、必要のない情報を仕入れすぎないようにすることで、オーバーヒートを防ぎ、本当にやりたい事や、重要な事を強いられるときなどに脳エネルギーを使えるようにしよう。ということです。
人は、「脳力の活性」または、脳細胞死滅の抑制等には気を配るが、現在持ち合わせている自分の「脳内の無駄な情報を取り除き、エネルギーの配分をどうすればいいか?」という事には関心がないようです。
いえ、そんなことを考えている人は、そうはいないでしょう。ですが、私達はまちがいなく、「情報化社会」の渦中にいる。
情報化社会では、自分の脳に入れる情報を選ぶ技術が必要だが、私たちはこの技術を習わずに知らず知らずのうちに脳内は情報過多になっている。
典型的なのは「SNS」。他人の行動が気になる、自分の投稿に相手がどう反応したか?トレンドを知っていないといけないという恐怖心、求めていない情報でさえもつい見てしまうなど、必要としない情報をあえて自ら取り入れようとしてしまう世界でくらしているのです。
これではあっという間に脳内は容量オーバーとなり、無駄なエネルギーをつかってしまうため、「ああ、今日は疲れただけで結局、何もできなかった・・」という毎日を送ることとなってしまう。
先ほどから、脳の容量オーバーという言葉をつかっていますが、どのような状態をいうのでしょうか?
例えば、仕事で疲れて家に帰ったとき、やりたいことがあっても何もできずにそのまま眠ってしまう。というのも脳の疲労の一種ではあるが、身体的な疲労も当然あります。
では実際、脳がオーバーヒートした状態というのは、例えば、次のようなサインがある時です。
ふとした瞬間にカッとなってはじめていらだちに気づく
自分の知らないところでちょっとした変化があると不快になる
日中ふとした瞬間にボーっとしていることがあり、周りが見えなくなることがある
「SNS」の投稿に対し、イラついたり嫉妬したり、落ち込んだりしてしまう
気晴らしのつもりでとった行動が逆に疲れてしまう
・・・など。
どうでしょうか?大抵の人はこのような経験があるのではないだろうか?
これらはあきらかに、無駄な情報収集が犯した脳の容量オーバーになってしまっている証拠です。パソコンで例えるなら、容量がいっぱいになり、立ち上がりが遅い、動きが鈍い、突然フリーズするようなもの。
つまり、いくら脳トレで脳機能を上げたとしても、いらない情報で脳内がオーバーヒートを起こし、動作を鈍らせていては、肝心な時に脳機能を発揮できないという事です。
では実際、どうすれば脳フリーズさせないためにはどうすればいいのでしょうか?
簡単です。無駄な情報を見ない、聞かないように気遣いをし、容量オーバーさせなければいいのです。
簡単ですとはいいましたが、少し訂正します。
無駄な情報を除外するということは、あなたにとって本当に重要だと思える事を優先的におこなうということ。
脳はマルチタスクができない
ここで、もう一つ知っておくことがあります。それは、脳はマルチタスク、つまり複数の事を同時進行でこなすことを苦手とする。
「脳はマルチタスクができないので、できるだけ同時に複数の作業に手をつけるのを避けましょう」。とはいっても「常に同時進行でこなさなければならない仕事なので、それは無理だ」「並行作業は仕事の基本であり必要なスキルだ」と、あなたはそう思ったでしょう。
マルチにこなす、同時にいろんなことをしなくてはいけないのは、仕事に限らず、日常生活でもよくあることです。
確かに、いろいろな作業に目配りしながら同時にこなさなくてはいけない時はあります。
しかし、よく考えてみて下さい。あなたの体はどうあっても一つしかありません。つまり、同時に何かをこなすとはいっても、やっていることは一つの作業であるということ。
洗濯機を回しながら掃除機をかけている時も、実際は自分が熟しているのは、掃除機掛けのみであり、洗濯機は機械が作業しているのです。
つまり、あなたの同時進行だと思っているのは、あなたの「頭の中だけがマルチになっている」だけで、実際の行動は、体一つでこなせるたった一つの事にすぎません。
頭の中で、「あれもこれもやらないといけない!」と勝手にマルチタスクを想像し、今やるべきことにエネルギーを注げない状態を作っている。
少し話がそれてしまいますが、ホリエモンこと、堀江貴文氏の「多動力」という書籍を読まれたことはあるでしょうか?
既に読まれた人は気付いたでしょうが、多動力とは、同時進行で何でもこなす力ではなく、次から次へと新しい事に挑戦し、やりたい事は何でもやろうというものです。
つまり、同時にこなすマルチタスクの力ではなく、「切り替え脳力」といってもいいかもしれません。著者の中でも堀江氏は、今やっていることに没頭し、ダメならキッパリ撤退し、とにかく次々と試してみることだ。
とおっしゃっています。一つの事に集中し、没頭しない限りは成し遂げられるものも成し遂げられない。
要は、自分が選択したやりたいことだけに集中し、無駄な事は一切受け入ず、脳のエネルギー効率眼ることだと私はそう解釈した。
何でもかんでも手を付けているように見えるが、実際今、堀江氏がやっていることは、たった一つのタスクに全力を注いでいる。
ホリエモンといえば、自らが出資するスタートアップ企業「インターステラテクノロジズ(IST)」が、小型の観測ロケット「MOMO(モモ)」3号機の打ち上げに成功した。日本の民間企業が単独で作ったロケットが宇宙空間に達するのは初めてのこと。
過去の打ち上げ失敗で、散々バッシングされながらも、そんな横槍は無視して、開発を続け、打ち上げ成功させたのは本当に凄いことです。
なかなか自分に自信を持てない今の若者に対して、失敗を怖れず突き進む勇気を、自ら示しているとても良い「モデル」になっていると思った。
ホリエモンはいう、「これからの時代は、宇宙産業の時代。ロケット打ち上げを絶対に成功させる!」という、確固たる「ビジョン」があったからこそ、誹謗、中傷、横槍も無視して、ロケット開発を続けることができたのだろう。
堀江氏は、「炎上を怖れないメンタルが強い人」と思われていますが、私はそうではないと思います。メンタルが強いのではなく、「ビジョン」が強いのです。
「炎上をものともしない、強烈なビジョンを持っている人」
強烈なビジョン。確固たる信念があれば、誹謗、中傷、横槍も「些細な雑音」にしかすぎない。気にするのもバカらしいと思えてくるのだろう。
さて、そろそろ話を戻します。
ここでわざわざ脳はマルチタスクができない、とお話しなければならないように、私たちは無自覚にマルチタスクをつくってしまう環境の中で生活している。
まずは、これを自覚しなければならない。いつでもどこでもなんでもできる世の中で生きるには、逆に、脳に入る情報を制限する技術が要求されるのだろう。
脳の容量を増やす最も簡単な方法は睡眠
脳を効率よく働かせるには、脳に1つずつ作業をさせることが重要だということがおわかりいただけたではないでしょうか。
ですが、どれだけ効率的な情報取得をこころがけても、脳のエネルギーはいずれ枯渇します。
脳内を整理し、再びエネルギーを回復させなくてはいけない。
そのもっともいい方法は、「睡眠」であることが実証されています。
この事に関しては説明は不要かもしれません。睡眠不足が脳の機能低下につながる事は誰しも承知しているからです。
睡眠の効果を挙げるとキリがないのですが、ここでいえることは、睡眠は脳の容量を確保する事ができるということ。
パソコンの「デフラグ(最適化)」をご存知でしょうか?
「デフラグ」とはデフラグメンテーションの略であり、一言で言うとファイルの断片化(フラグメンテーション)を解消することをいいます。
パソコンはハードディスクにデータを書き込んだり読み込んだりしています。ハードディスクでは何度もデータの読み書きや消去を繰り返すうちに、1つのファイルが連続した領域に収まらず、複数の領域に分断されていく。これを断片化(フラグメンテーション)といいます。
断片化が起こると、ファイルを開くのに複数領域を読み込む必要があるため、処理が遅くなり、パソコンの動作が重くなる。この断片化したデータを、可能な限り連続して配置・整理し直すことを「デフラグ」という。
デフラグのメリットは、「ファイルの読み込み、書き込み速度が上がる」、
「起動が早くなる」、「プログラムの動作が快適になる」、「ハードディスクの残り空き容量が増加する」というもの。
睡眠は、脳内の情報に対し、必要なものを長期記憶へ、必要としないものは、消去し、さらに、既存の記憶と関連付けて整理するなど、意識しなくても、これだけのことをこなしてくれるのです。
睡眠は脳の最適化。パソコンのデフラグ作業と同じ作業を勝手にしてくれる、いえそれ以上のことをしてくれる唯一の機会なのです。
何を選択するか、しないかが大切
私たちは、選択肢が多いことが豊かだと思いがちですが、脳にとっては、無駄に多すぎる選択肢は無駄な消費を招くだけ。
なぜなら、脳は選択すること自体にエネルギーを大量に使うから。脳の省エネ機能に合わせるには、表面的な豊かさを求めて多くの選択肢をつくることが目的になってはいけない。
目的は自分のやりたいこと、やるべきことを成し遂げることです。選択肢を増やしたり減らしたりするのは、あくまでも手段です。
脳は、行動を選択することでエネルギーを消費し、同時に複数のことを選択するマルチタスクには対応できない。これが私たちの脳のスペックであり、脳をうまく使いこなすには、このスペックに見合った使い方をしなくてはいけないのでしょう。
私たちの脳は、何気ない日常の中でも、様々なことを選択している。その中から脳が働きやすいように何を選んであげればよいのかを見つけていけば、あなたの脳の最適な使い方が見えてきくるはず。
まずは、朝起きてから夜眠るまで、脳がどんな選択をしているのかを一度挙げてみよう。
自分で決める選択と他人が決める選択
最後に、情報の選択は「自分で決める」ことが効率的だという事をお話ししましょう。
知らないうちに情報が目から耳から入ってくるこの時代、毎日のように選択を強いられるなか、自分の脳が望ましくない行動を選択しないように仕向けることが大切。
脳のエネルギーが望ましい行動に使われるようにうまく誘導することが、慢性的な疲れから脱却し、自分の力を発揮するカギになります。
だが、一口に選択と知っても、自分で選択できることばかりでなく、他人が選択したことをこなさないことも当然あります。
例えばあなたが、上司の指示でいやいや仕事をやらされたとします。上司に気に入られるためにも点数を稼いでおかなければならないので、あなたは一生懸命頑張るでしょう。
これは、上司の言うことを聞かなければならないという外からの圧力でやる気を出しているので、「外発的動機付け」と呼ばれ、反対に、自分自身が企画した仕事を自分の責任で実行しているときは、自分からやる気が沸き起こっているので、「内発的動機付け」と言います。
脳がやる気になるには、上司に気に入られることや給料をもらえることなどの外発的動機付けでも、自分のためにやる内発的動機付けでも活発になるのだが、その作業が失敗したときに正反対の反応が起きる。
上司に言われてやらされた仕事を失敗すると、内側前頭前野はパタッと働かなくなる一方で、自分で企画して取り組んでいる仕事を失敗しても、この内側前頭前野は活発に活動し続けるのです。
脳は、他人に行動を決められたり他人が選んだことに従っているとき、それがうまくいかなくなるとフリーズする仕組みになっているのです。
つまり、脳にとって自分で決めることと他人に決められることは大きく違うということ。
パソコンがフリーズするように、脳もパタッと働かなくなることがあります。脳が動かなくなるのは、人にやらされていることを失敗したときなのだ。
自分で選んだことや自分で決めたことは、失敗してもフリーズすることなく、その失敗から学んで次のやる気が生み出される。
これは、やる気や意識の高さではなくただの脳の仕組みです。ということは、私たちは自分で自分の行動を選べば選ぶほど、常にやる気を持って日々の生活を送ることができるということです。
自分で選んで実行することは、脳にとって非常に重要な意味を持っている。
但し、自分にとって必要とすることであるのは言うまでもありません、暇つぶしにSNSを開き、ただ眺めるだけの無駄なエネルギーはかえってマイナスとなるだろう。
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