相手のやる気スイッチをオンにするメッセージの伝え方

「あなたはかしこいねぇ!」
「あなたはサッカーが本当に上手だね!」
このように、相手を「ほめる」ことは、相手のやる気を引き出す力があります。
そこで、人をほめるという行為を少し考えてみましょう。
あなたの「ほめる」その行為は、あなたを主体としたメッセージなのか、ほめた相手を主体としたメッセージなのか。
この違いはわかるでしょうか?
先ほどの、「あなたはかしこいねぇ!」というメッセージは、確かにほめてはいるのですが、それは裏を返せば次のように受け止められてしまう事もある。
「あなたは私より下だ」
「私は、あなたの状態を、客観的に評価できるほど上の人間なんだ」
という上から目線のメッセージになってしまうこともある。
「えっ!? そんなつもりないよ!?」と思う人もいるかもしれません。
しかし想像してください。一般人がプロ野球の選手に、「○○さんは野球が上手ですねぇ」などと、面と向かって言わないはずです。
プロ棋士に「結構将棋強いですねぇ」とか、お笑い芸人に「なかなかおもしろいこといいますね~」など。
このようにほめられたプロの方たちは、おそらく「随分(素人が)えらそうないいかたするなぁ~」と、半ばそう感じてしまうのではないだろうか。
つまり、ほめることが、いわゆる「上から目線」に受け止められてしまい反対に失礼に当たる。というわけです。
どうですか?あなたももしかしたら、ほめられてはいるが、なんとなく違和感を覚えた経験があるのではないだろうか?
なぜ、相手を「ほめる」ことにこのような掃き違いを生じてしまうのでしょうか?
実は、「ほめ言葉」というものは厄介なもので、ほめる側目線とほめられる目線とでは自分は褒めているつもりでも、相手にしてみれば、時に「からかわれている」と受け取られることもあり、時に「決めつけられている」と受け止められる事もあり、然るに「イヤミをいわれた」とさえも受け止められる可能性があるのです。
「ユー・メッセージ」と「アイ・メッセージ」
そこで、「ほめる」ときに心がけることとして、「ユー・メッセージ」ではなく、「アイ・メッセージ」で伝えることを心がけて頂きたいのです。
「頑張ってるね」「あなたは素晴らしい」「君は偉い人だ」といった相手の状態をただ伝えるだけのほめ言葉を「ユー(You)メッセージ」といいます。
「あなたは○○」というように決めつけるようなほめ言葉は、ほめられたことが明らかにウソっぽかったり、おべんちゃらだとわかれば、「真実でないほめ言葉」にイライラするだけでなく、「からかわれている真実」に辛さを感じてしまう可能性もあるのです。
それに、真実であるほめ言葉も、ほめられた相手を苦しめることがあるのです。
例えば、「あの人は全然だめだったのに、あはたはすごいね」などと、他人と比較された上でほめ言葉を伝えられても、言われた本人は喜びにくいものです。
褒められたことを喜ぶ前に、「自分はあの人と張り合うつもりもないのに、まる私があの人と比較しているかのように決めつけないでほしい・・」と勘違いされてしまうことにネガティブな印象を持たれてしまうかもしれません。
「ユー・メッセージ」とは、「あなたは○○」といった、相手を主体としたメッセージで、相手の行為や状態を決めつけてしまいかねないメッセージです。
それより大切なのは「アイ・メッセージ」で伝える事を意識してほしいのです。
それでは、「アイ・メッセージ」とは何か?「アイ・メッセージ」で伝えるほめ言葉は、どういう言い方なのでしょうか?
「あなたがあんなことをしたおかげで、私はこんなふうに感じた」
「あなたの頑張りを見て、私は勇気が出た」
「あなたのおかげで、私たちみんなが助かった」
「私は、あなたと一緒にいられて嬉しい」
「あなたが頑張ってくれたのが、私はとっても誇らしいの」
などといった、相手が行った行動によって自分が感じた気持ちを伝えるいい方を「アイ(I)・メッセージ」という。
「私は○○」というように、伝えた側を主体としているので、ほめられた側にしてみれば、「自分はほめられた」というよりも、「自分は人のためになった」「自分のやったことが認められた」と感じ取ってもらえるのです。
要は、アイメッセージとは、自分自身がどう感じるか、ということを言葉にするべき、というわけ。
「自分の感情」なので、相手にたいして何も強制することもなければ、決めつけたりすることもありません。そのため相手はすんなり受け入れあてもらえる効果があるのです。
「成果承認」よりも「存在承認」を
ユー・メッセージとの違いはわかりますか?
ユー・メッセージは相手を「評価」していますが、アイ・メッセージは、相手を「承認」しています。
相手を「評価」するのは、結果による成果を認めることで、結果を出せない成果を認めようとはしません。
一方、「承認」とは、結果ではなく、プロセスを認めることで、結果がどうあれ、その行為そのものを認めること。
「結果は出せなかったが、あなたのがんばりは素晴らしい。」というユーメッセージは、結局認めてもらったわけではなく、むしろ慰めのようにも感じます。
「結果はだせなかったが、あなたのがんばりが私はやる気をとり戻すことができた!」というアイ・メッセージは、がんばった行為そのものが、認められたと感じてもらえるのです。
さらにいうと、「ユー・メッセージ」と「アイ・メッセージ」は、会社で相手に指示を出す時にもその伝わり方が違ってきます。
たとえば、「書類を出しっぱなしにしないで、しっかり保管しておいてくれ」という指示をしたとします。
主語が抜けているのでわかりにくいかもしれませんが、主語と述語で明確に言うと次のような命令形になっています。
「あなた(ユー)は、書類をしっかり保管しなさい」
ユー・メッセージは、ダイレクトに命令をしているように伝わってしまいます。人はコントロールされることが嫌いです。命令されると、反論したくなるもの。
では、アイ・メッセージに置きかえてみましょう。
「書類を出しっぱなしにしないで、しっかり保管しておいてくれると、私は安心できるんだよな」
主語を補完すると、次のような文章になります。
「私は安心できるんだよ。あなたが書類をしっかり保管してくれると」
「私(アイ)」を主語にして、メッセージを伝えるから、アイメッセージです。
さきほどの命令形と比べて、どう感じられましたか?この言い方だと、あくまで自分の気持ちや感情を述べているに過ぎません。相手を責めることもありません。
相手にしてみれば、命令されているわけではないので、そのまま書類を放っといてもいいし片付けてもいい、その選択は相手次第。
どうでしょうか?命令されたわけではないのに、片付けようという気が起きませんか?
相手に伝える「ほめ言葉」も、指示もお願い事も、「あなたは○○」という成果承認ではなく、「あなたの○○で、私(他の誰かが)△△できた!」という、存在承認をしよう。
人の役に立てる事は誰しもうれしいものなのです。